大阪地方裁判所 平成11年(レ)267号・平11年(レ)253号 判決
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人・反訴被告の請求をいずれも棄却する。
三 被控訴人・反訴被告は、控訴人・反訴原告に対し、金五六万三九七二円及びこれに対する平成一〇年七月二八日から支払済みまで年二七パーセントの割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じ、本訴・反訴ともに被控訴人・反訴被告の負担とする。
五 この判決は、第三、四項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 本訴請求
1 控訴の趣旨
(一) 主文第一、二項と同旨
(二) 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人・反訴被告の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人・反訴原告の負担とする。
二 反訴請求
1 反訴請求の趣旨
(一) 主文第三項と同旨
(二) 訴訟費用は被控訴人・反訴被告の負担とする。
2 反訴請求の趣旨に対する答弁
(一) 控訴人・反訴原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は控訴人・反訴原告の負担とする。
第二事案の概要
(本訴請求)
本訴事件は、被控訴人・反訴被告(以下「被控訴人」という。)が、控訴人・反訴原告(以下「控訴人」という。)から貸与されていたクレジットカード(以下「本件カード」という。)を紛失し、警察に対してその紛失届を出すとともに控訴人にもその旨知らせたが、それまでの間に本件カードが第三者によって不正使用され、控訴人からその利用代金・遅延損害金等として合計六九万三九〇一円を請求された上、そのうち一〇万九三七九円を被控訴人の銀行預金口座から控訴人宛に引き落とされたとして、控訴人に対し、その後請求された残金五九万六八七三円(当審において五六万三九七二円に請求を減縮)の債務不存在の確認と引き落とされた一〇万九三七九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の返還を求めている事案である。
(反訴請求)
反訴事件は、控訴人が、被控訴人に対し、本件カードの利用代金合計六七万三三五一円から既に銀行預金口座からの引落しにより決済された前記金額を控除した残金五六万三九七二円及びこれに対する最後の利用代金の支払期日の翌日である平成一〇年七月二八日以降の遅延損害金の支払を求めている事案である。
一 争いのない事実等(証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)
1 当事者
控訴人は、アメリカ合衆国デラウェア州法による法人であるが(甲一)、日本においてはクレジットカードサービス等を提供する事業活動を行う企業であり、被控訴人は、控訴人からアメリカン・エキスプレス・カードサービス会員規約(以下「会員規約」という。)に基づくアメリカン・エキスプレス・カードの貸与を受けた者である。
2 控訴人と被控訴人との間におけるクレジットカード契約
控訴人は、平成一〇年一月九日ころ、被控訴人との間でクレジットカード契約(以下「本件契約」という。)を締結し、同契約に基づき、被控訴人に対し、アメリカン・エキスプレス・カード(本件カード)を貸与した。
本件契約においては、カードが紛失し又は盗難された場合の処理に関し、次のとおり定められている(会員規約一三条)。
「1 カードが紛失し、不正に使用されもしくは盗難にあった場合または発行時にこれを受け取らなかった場合、会員は、ただちに最寄りの当社の営業所(海外においてはアメリカン・エキスプレスの営業所)にその旨届けでるものとします。この場合、会員は所轄警察官署に被害届等を行ったうえ、その警察官署より届出の受理を証明する文書を入手して当社に提出するものとします。このほか、会員は不正使用者の発見及び損害の防止軽減に必要な努力をし、当社又は当社の契約する保険会社の指示に従って必要な手続を行い、その調査に協力するものとします。
2 会員は、承諾したと否とにかかわらず本人以外の者によるカードの使用から生じたカード利用代金等をすべて支払うものとします。
3 前項の規定にかかわらず、カードの紛失、盗難などについて第1項の届出がなされた場合においては、その届出を当社が受け取った日から遡って六〇日目以後に生じたカードの不正使用については、会員は支払責任を負わないものとします。ただし、次の場合はこの限りでないものとします。
(イ) 会員の故意または重大な過失に起因する場合。
(ロ) 会員の家族、同居人もしくは留守番その他会員の委託を受けて身の回りの世話をする者がカードを紛失し、これを不正使用もしくは窃取した場合、またはこれらの者がカードの紛失、不正使用もしくは盗難に関与した場合。
(ハ) 第3条第2項に違反して他人にカードを使用させた場合。
(ニ) その他会員規約に違反する行為に起因して不正使用が生じた場合。
(ホ) 会員が当社およびその保険会社の行う被害状況調査等に協力しない場合、または必要書類を当社もしくは保険会社に提出しない場合。」
なお、本件契約では、被控訴人は、控訴人に対し、カード利用代金のうち、毎月所定の締切日までに当該加盟店から控訴人に通知され、かつ、右同日締め切られた分を、同月二六日(法定の休日に該当する場合はこれに継ぐ第一の取引日)に支払うこととされている。
3 本件カードの使用
本件カードは、平成一〇年四月一三日から同年五月五日までの間に、別紙債権目録記載の商品の購入ないしサービスの提供を受けるために使用された(甲四・五の各1ないし3、六。以下、これらの本件カードの使用を「本件使用行為」という。)。
4 本件カードの紛失届
被控訴人は、平成一〇年五月六日、控訴人に対し、本件カードを紛失した旨の連絡をして、大阪府河内警察署に本件カードの紛失届を行い、同届を控訴人に提出した(甲三、弁論の全趣旨)。
5 被控訴人の銀行預金口座からの引落し
平成一〇年八月二六日、被控訴人の銀行預金口座から本件カードの利用代金等として一〇万九三七九円が控訴人宛に引き落とされた。
二 争点
1 本件使用行為が本件カードの紛失又は盗難により、被控訴人と無関係な第三者によって行われたかどうか。
(被控訴人の主張)
(一) 被控訴人は、本件カードを一度も利用したことはないし、第三者にその使用を許諾したこともない。本件カードは、紛失又は盗難により、被控訴人と無関係の第三者によって不正に使用されたものである。
なお、カードの紛失又は盗難の事実については、カード会社である控訴人が紛失又は盗難がなかったことの立証責任を負うと解すべきである。
(二) 被控訴人が初めて控訴人担当者に電話をかけたのは平成一〇年五月六日に控訴人に紛失を届け出た際であり、その翌日、控訴人担当者から電話があり、初めて本件カードが不正利用されていることを聞かされた。
(三) 被控訴人が控訴人に対して行った説明内容は次のとおりである。
(1) 紛失を届け出た際、「数日前に電車に乗るために慌てて切符を購入しようとした際、財布ごとその場に落としてしまったことがある。その際カードを紛失したのかも知れない。」と説明した。
(2) その後、「平成一〇年四月ころ、自宅の最寄駅で前勤務先の後輩のヨシワラから声をかけられた。その場では自分がヨシワラに自分の携帯電話の番号を教えて別れたが、帰宅後同人から電話がかかり、同人が夫婦で自宅にやって来た。その日は泊まるところがないので泊めてほしいと頼まれたので泊めてやった。もしかすると、その際にカードを盗まれたのかも知れない。ヨシワラからかかってきた携帯電話の番号は携帯電話から消滅してしまって分からないし、住所も分からない。」と説明した。
(控訴人の主張)
(一) 本件カードが頻繁に使用されるようになった平成一〇年四月一四日及び同月一五日に、控訴人は合計三件のカード利用につき承認を拒否したことがあったが、その直後、四回にわたって、被控訴人から不承認理由等についての電話での問い合わせがあり、控訴人担当者は、そのいずれの問い合わせに対しても、本人であることを確認の上、回答をした。
(二) 紛失の態様についても、被控訴人の説明は激しく揺れ動いている。
(1) 平成一〇年五月六日に紛失を届け出た際には、「カードは財布に入れていて、財布ごと紛失した。最後にカードの存在を確認したのは一週間くらい前だ。」と述べていた。
(2) その後、「財布の中に入れていたカードのみを紛失した。平成一〇年四月中旬ころ、前勤務先の後輩が夫婦でいきなりやって来て泊めてくれと言ったので泊めたことがあったが、そのときにその後輩が盗んでいったのかもしれない。」と話が変わった。
(3) 控訴人担当者がその後輩のことを追及したところ、「その後輩は、前勤務先の後輩であると自ら説明の上、ヨシワラと名乗ったが、自分は同人のことを覚えていなかった。泊まるところがないので今夜だけ泊めてくれと懇願されたので泊めてやった。ヨシワラの住所も電話番号も分からない。」などと極めて疑わしい話になった。
(三) 本件カードは、平成一〇年四月一三日、なんばオリエンタルホテルで宿泊代金の決済のため使用されているが、その際、カード利用者は宿泊者名簿に、勤務先をアリコジャパン(被控訴人の勤務先に一致する。)、住所を大阪市岩田町三-七-八(町名まで被控訴人の住所と一致する。)と明記していることからみても、本件カードの右利用者は被控訴人の個人情報に精通した者と考えられる。
(四) 以上の点を総合考慮すると、本件カードは、紛失又は盗難により、被控訴人と無関係な第三者によって使用されたのではなく、被控訴人又はその許諾を得た第三者によって使用されたことが明白である。
なお、カードの紛失又は盗難の立証責任は、会員にあると解すべきである。
2 被控訴人は、控訴人が行った被害状況調査等に協力せず、又は必要書類を控訴人に提出しなかったか。
(被控訴人の主張)
(一) 被控訴人は、平成一〇年五月六日昼ころ、本件カードを紛失したことに気付き、同日夕方ころ、控訴人に本件カードを紛失した旨届け出た。そして、控訴人の指導により、大阪府河内警察署に本件カードの紛失届を提出した。
(二) 被控訴人は、平成一〇年五月六日、右警察署にカードの紛失届を提出した後、控訴人担当者から紛失届を盗難届に切り替えてもらうよう言われたので、再度同警察署に赴き、紛失届を盗難届に切り替えてもらおうとしたが、同警察署の警察官から、「カードの使用によって被害を被っているのは加盟店かカード会社であり、あなたが被害届を出すのはおかしい。」、「本当にヨシワラという人物が盗んだかどうかはっきりしないのに、ヨシワラという人物を犯人として被害届をして、後日、同人が犯人でないことが判明したらあなたはどうするのか。」と言われ、盗難届をさせてもらえなかったのであり、その旨は控訴人担当者に説明済みである。
(控訴人の主張)
控訴人は、本件カードが盗まれたのであれば警察署に詐欺等の犯罪として捜査を依頼すべく、平成一〇年五月二二日、被控訴人に対し、警察署への届出を単なる「遺失届」から「盗難届」に変更するよう協力を依頼した。しかし、被控訴人は、「そのつもりはない。」と協力を拒否した。
第三争点に対する判断
一 争点1について
前記のとおり、会員規約一三条では、第三者がカードを使用した場合でも、原則的には会員がその使用料金の支払義務を負うが、例外としてカードが紛失又は盗難にあって不正に使用された場合には、一定の手続を経ることにより一定期間のカードの不正使用について支払義務を負わないものとし、その場合でも、更に一定の事由があるときは、支払義務を免れないものとしている。このような会員規約一三条の定め方のほか、実質的にみても紛失又は盗難の経緯は、会員に関することであり、通常、カード会社よりも会員の方がその事実関係を把握し得る立場にあることに照らすと、カードを紛失又は盗難により第三者に不正に使用されたとしてカード利用による支払義務を免れようとする会員は、カードの紛失又は盗難の事実について立証責任を負うと解するのが相当である。
ところで、被控訴人は、本件カードを紛失し又は本件カードの盗難にあったと主張するとともに、当審における本人尋問においても右趣旨の供述をしており、甲第一二号証(被控訴人作成の陳述書)にもこれに沿う記載がある。
しかし、証拠(甲四の1、乙一ないし四)及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、本件カードが頻繁に利用されるようになった平成一〇年四月一四日及び翌一五日には、合計三回のカード利用についてその承認を拒絶したことがあったが、その直後、四回にわたって、不承認理由等について控訴人に電話で問い合わせがあったこと、控訴人担当者は、そのいずれの問い合わせの際にも、本人確認を行った上、回答したこと、被控訴人は、同年五月六日、控訴人に初めて紛失の届出をした際、「カードは財布に入れていて、財布ごと紛失した。最後にカードを確認したのは一週間くらい前である。」と述べていたが、その後、「財布の中に入れていたカードだけを紛失した。平成一〇年四月中旬ころ、前勤務先の後輩が夫婦でいきなりやって来て泊めてくれと言ったので泊めたことがあったが、そのときにその後輩が盗んでいったのかもしれない。」と述べたこと、そこで、控訴人担当者がその後輩のことを問い質したところ、被控訴人は、「その後輩は、前勤務先の後輩であると自ら説明してヨシワラと名乗ったが、自分はその人のことは覚えていなかった。泊まるところがないので今夜だけ泊めてほしいと懇願されたので泊めてやった。ヨシワラの住所も電話番号も分からない。」と述べたこと、本件カードは、同月一三日、なんばオリエンタルホテルで宿泊代金の決済のため使用されているが、その際、本件カードの利用者は、宿泊名簿に、勤務先を被控訴人の勤務先であるアリコジャパン、住所を東大阪市岩田町三-七-八と記載したこと、この住所の表示は、町名までは被控訴人の住所と一致していること、以上の事実が認められる。
右のとおり、本件カードの利用に関して控訴人に問い合わせがあり、その際、控訴人担当者は本人確認を行ったこと、本件カードの紛失又は盗難に関する被控訴人の控訴人に対する説明が変遷している上、その内容も不自然であること、本件カードを使用した者が記載した被控訴人の住所の表示が町名まで実際の住所と一致していることなどに照らすと、被控訴人の前記主張に沿う被控訴人の前記供述部分及び甲第一二号証の記載部分はにわかに措信することができないし、ほかに被控訴人の前記主張事実を認めるに足りる証拠もない。
そうすると、被控訴人は、本件使用行為について、本件契約に基づく支払義務を免れないといわなければならない。
二 まとめ
以上の次第で、被控訴人の請求は、その余の点に触れるまでもなく、理由がないから棄却すべきところ、これを認容した原判決は相当でないから、原判決を取り消して被控訴人の請求を棄却することとし、当審において提起された控訴人の反訴請求は理由があるから、これを認容することとする。
(裁判長裁判官 小佐田潔 裁判官 川畑正文 裁判官 角谷昌毅)
債権目録
商品等の購入及びサービス供与の代金。
購入日(頃) 購入場所(加盟店) 金額
平成一〇年
(1) 四月一三日 なんばオリエンタルホテル 専門店街 ダオーレ 一一、八四四円
(2) 同 同 三九、二七〇円
(3) 四月一四日 かに道楽 道頓堀中店 三八、六九〇円
(4) 同 田門 六九、八二五円
(5) 同 プランタン 難波 二七、九三〇円
(6) 同 同 二四、九九〇円
(7) 同 出光 八、八二〇円
(8) 同 なんばオリエンタルホテル 四、七八八円
(9) 同 なんばオリエンタルホテル 専門店街 ダオーレ 二、五二〇円
(10) 同 ニューヨーク プレス ギャレリア 四二、六三〇円
(11) 同 出光 七、一七四円
(12) 同 大丸 心斎橋店 九二、四〇〇円
(13) 四月一九日 すペーす 藤屋 二〇〇、〇〇〇円
(14) 四月二〇日 伊藤忠燃料 五七八円
(15) 同 コスモ石油 一、八九〇円
(16) 同 同 四、一三五円
(17) 同 モービル石油 一、三一七円
(18) 四月二一日 エッソ石油 一、七〇一円
(19) 同 同 三、〇八七円
(20) 同 同 五二五円
(21) 同 同 二、一〇〇円
(22) 四月二三日 モービル石油 二、二〇五円
(23) 四月二八日 コスモ石油 六、三〇〇円
(24) 同 同 一、九二四円
(25) 四月二九日 同 二、五三六円
(26) 四月一九日 ジョモ 七、四二八円
(27) 四月二〇日 同 四、〇八二円
(28) 四月二三日 同 三、九八〇円
(29) 同 昭和シェル石油 五、六六〇円
(30) 四月二六日 モービル石油 六、七二五円
(31) 四月二七日 日本石油 三、二九六円
(32) 四月二八日 出光 五、三一三円
(33) 同 同 一、五七五円
(34) 同 同 三、一五〇円
(35) 五月一日 エッソ石油 七三五円
(36) 同 同 八四〇円
(37) 同 同 五、三五五円
(38) 五月三日 モービル石油 三、八六二円
(39) 同 昭和シェル石油 九、二四〇円
(40) 同 三菱石油 一、七五七円
(41) 同 エッソ石油 六、五〇一円
(42) 五月五日 日本石油 四、六七三円
合計金、 六七三、三五一円
但、右のうち、(1) 乃至(25)の各債権は平成一〇年五月一三日に、(26)乃至(41)の各債権は同年六月一四日に、(42)の債権は同年七月一三日にそれぞれ締切られた。